
人は小さい時に母親に抱かれ、確かな安心感を得ます。そして誰に教わるでもなく、無意識に人を信頼することを身につけてゆきます。もしもそこを通らずに成長してしまったなら、彼のようにやり方もわからないまま何も伝えられないまま、安心感を求めてさまよい続けなければなりません。後から取り戻すことがいかに難しいか、彼は身を持って私達に教えてくれました。そういう彼のことが分かるまで随分時間がかかりました。彼とのほんとうの関係がまだ始まらないうちに三年が経ち、中学二年になった春、児童相談所を通じて、居場所のわからなかった実父から連絡があったと知らせを受けました。子ども達のこれから先のことは子ども達に任せることにして、一人ずつ気持ちを聞いていきました。
感情を思い切り私達にぶつけ、家出までしたことのある長男は、初めから「僕は行かない」と固い意志を通しました。少し将来のことも考えられるようになってきた次男は、迷いに迷った末、「やっぱり行く」と決めました。そして三男は、その話を聞いた時からずっと、「お父さんといっしょに暮らしたい」と思い続けました。その三男の気持ちが私には痛いほどわかり、淋しい以上に彼が早く自分の居場所を見つけ、安心
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